働き方改革とキャッシュフローの切ってもきれない関係

2019年4月に働き方改革関連法案の一部が施行され、「働き方改革」が中小零細企業にとっても経営課題のひとつになってきました。

とはいえ結局「働き方改革」でなにが変わるの? ウチの会社にはどんな影響があるの? と不安に思っている人も多いはず。

この記事では「働き方改革」をキャッシュフローの視点で考えてみたいと思います。

こんな人に読んでほしい
働き方改革が会社にあたえる影響が心配な経営者
人件費をどこまでかけていいか分からない経営者
現場に忙しいと言われて人員補充を繰り返している経営者

働き方改革ってなに?

働き方改革関連法といえば「時間外労働の上限規制」や「有給休暇の付与義務」など労働時間を減らす法改正の側面がクローズアップされがちですが、その本質は「労働生産性の向上」です。

では「労働生産性」を高めるってどういうことでしょう。

労働生産性ってなに?

「労働生産性」は次の数式でもとめます。

労働生産性=リターン(付加価値額)÷投資(従業員数または時間あたりの労働量)

つまり従業員一人(または時間あたり)でどれだけ多くの「付加価値」を生み出せたか?ということです。

「付加価値」は「お金のブロックパズル」で見るとここにあたります。

(注)「付加価値」の定義は「総生産額から,他企業より購入した原材料・燃料等の費用を差し引いたもの、 その企業で新たに造出された価値 」(百科事典マイペディア)とされ粗利益とイコールではありませんが、この記事では分かりやすくするために「粗利益≒売上総利益≒付加価値」として説明します。

「売上」から売上に連動して増減する費用を差し引いた残りが「付加価値」です。

付加価値ってなに?

では「付加価値を生み出す」とはどういうことでしょうか。

スーパーで売られているリンゴがあります。1個あたりの卸値は70円です。

店頭での売値が1個100円とすると、付加価値は30円です。
売上100円ー売上原価70円=付加価値30円

価値を加えるほど付加価値は増える

では売値が1個120円だったらどうでしょう。

リンゴの陳列棚にはこんなPOPがあります。「契約農家から直接仕入れた有機栽培の完熟リンゴを限定販売!」

売上120円ー売上原価70円=付加価値50円

付加価値が20円増えました。

リンゴをアップルパイに加工してさらに価値を加えてみます。

同じくリンゴ1個分が使われたひと切れが300円で売れたらどうでしょう。小麦粉や砂糖などの材料費を追加して売上原価は90円かかったとします。

売上300円ー売上原価90円=付加価値210円

付加価値はさらに160円増えます。

付加価値の定義のなかに「その企業で新たに造出された価値」ともあるように、まさに加えられた価値。価値を加えるほど付加価値は大きくなります。

ウチは何人まで雇えるの?

「従業員一人あたりの付加価値」が大きくなることで労働生産性が上がります。

あらためて数式を見てみましょう。

労働生産性=付加価値÷従業員数または時間あたりの労働量

労働生産性を上げる方法はふたつあります。

ひとつは「付加価値」を上げること。もうひとつは「従業員数または労働時間」を減らすことです。

「労働生産性を上げる」とは「より少ない人員または労働時間で、より多くの付加価値を生む」ということです。

スタッフが忙しくて手が回らないなら中途採用で数人補充しよう

退職者がでたからすぐに募集をかけなきゃ

社内でよく聞かれる会話です。

付加価値を上げるためにはそのぶん人手が必要だと思っていませんか? いまの人員は適正ですか? いまの人件費は適正ですか? 適正かどうか検討したうえでの人員補充でしょうか。

労働分配率を見てみよう

労働生産性と同様に経営の効率を「人」の側面からみる指標に「労働分配率」があります。

「労働生産性」が「従業員一人あたりが稼ぎだした付加価値」をあらわすのに対して、「労働分配率」は「付加価値のうち人件費に分配した割合」をあらわします。

労働分配率=人件費÷付加価値

モデルケースのばあい付加価値80に対して人件費が40なので、労働分配率は50%になります。

会社に利益が残る労働分配率とは?

労働分配率に絶対的な適正値はありません。

おおまかな目安はあります。業種ごとに、個人の歯科医院は25~35%程度、飲食店はおおよそ30%程度、製造業は40~60%あたりが平均値です。

付加価値のうち人件費に分配された割合ですから、従業員にとっては高い方がいいと感じるでしょう。

でも実際には高ければ高いほど、低ければ低いほどいいということはありません。

いくら人件費を潤沢に出したところで会社に利益が残らず結果的に存続できなければ従業員を守ることはできません。かといって報酬が低すぎる会社で従業員がモチベーションを保って成果を出し続けるのはむずかしいでしょう。

そこで、まず会社に利益が残る割合がどれくらいかを知る必要があります。

お金のブロックパズルの詳しい見方はこちらの記事を参考にしてください。

モデルケースでは、手元に残すべきお金が「4」であれば労働分配率50%が適正ということになります。

粗利益がどれだけあって、どれだけお金が手元に残っているか分かっていること。そしてどれだけお金を残さなければならないかが分かっていることが、自社にとって適正な労働分配率を知る前提になります。

会社にとっての適正な労働分配率が分かっていれば安心して給料を支払うことができます。

なかには、粗利益に対して適正な労働分配率に達するまでの差額をきっかり賞与として支払うと決めている会社もあります。

粗利益を多く残すことができれば自分たちの報酬も増えるので、納得感をもって働くことができます。

労働生産性と労働分配率の関係

人件費が変わらずに付加価値が増加すると労働分配率は下がります。

逆に付加価値がそのままで人件費だけを上げると労働分配率は上がります。

人数や労働時間を変えずに付加価値を増やすことができれば労働生産性は上がります。

このとき人数や労働時間を変えなくても人件費の総額を上げれば労働分配率は変わりません。

つまり「労働分配率を変えずに労働生産性を上げる」というふたつの条件がそろってはじめて人件費のアップが可能になります。

まとめ

働き方改革と聞くと労働者保護という印象を受けるかもしれませんが、私はそうは思いません。

長時間働くことが評価される、人海戦術で何とか乗り切るというやり方が常態化してきたことで、日本の生産性は先進国のなかでも最低水準と言われつづけています。

労働者一人あたり(時間あたり)の付加価値を高めるということは、「これまでと同じ人員でより大きな付加価値を生む」、または「これまでより短時間で同じ付加価値を生む」「これまでより少ない人員で同じ付加価値を生む」ことが求められます。

長時間働けば評価されてきたという人にとってはむしろ過酷な要求かもしれません。

経営者としては自社の生産性を見直すチャンスです。まずは会社としてバランスのいい労働分配率を知ることから始めてください。

やり方が分からないばあいはぜひご相談ください!

この記事を書いた人

小松 雅子

キャッシュフローコーチ®
申告のために集計された数字は1ヵ月前、半年前の数字です。過去の数字をながめているだけでは将来の計画は立てられません。決算書などにあらわれる経営数字をどうやって1ヵ月後、1年後、5年後に活かすかを一緒に考えるのがキャッシュフローコーチの役目です。
経営者がドンブリ経営ゆえの漠然とした不安から解放され、自信をもって意思決定をおこなうお手伝いをしています。